2年前、YouTubeでソフトバンクグループの株主総会を見た。

そこで孫正義さんが語っていたのは、いま話題のAIそのものではなく、その"先"の話だった。AGI、そしてASI。人間の知能を追い越していく存在の話だ。

最初は「またとんでもないことを言っているな」くらいの気持ちで見ていた。でも見終わったあと、その景色がずっと頭から離れなくなった。

そのとき僕が素朴に感じたのは、こういうことだ。

ここ5年で、世界は大きく変わる。そして10年後には、もう自分の知らない未知の世界になっている──。

AI、AGI、ASI──何がどう違うのか

まず、言葉を整理しておきたい。

いま僕たちが毎日使っているChatGPTやClaude、Geminiは、まだ「特定のことが得意なAI」の段階にある。これがさらに進化した先に、次のステージがやってくる。

ひとつが AGI(汎用人工知能)。あらゆる分野で人間並み、あるいはそれ以上に賢くなったAIのことだ。孫さんはこれを「人類の叡智の総和の10倍」と表現している。

そしてその先にあるのが ASI(人工超知能)。AGI同士が互いに議論し、自己進化を重ねた末に生まれる超知能で、孫さんの定義では「人類の叡智の1万倍」。もはや、人間が束になっても敵わないレベルの知能だ。

孫さんは、この差をわかりやすく例える。AGIを使いこなす人と使わない人の差は「人間とサル」くらい。でもASIの時代になると、その差は「人間と金魚」になる、と。金魚の脳細胞は人間のおよそ1万分の1しかない。つまり、僕たちが金魚を眺めるのと同じ目で、ASIは人間を見るようになるかもしれない。

「この10年が、人類20万年の分岐点」

孫さんが繰り返し言っていたのが、シンギュラリティ(技術的特異点)はこの10年で訪れる、という話だった。

人類が誕生してから20万年。ずっと地球でいちばん賢い生き物だった人間が、初めて自分の手で、自分を超える知能を生み出そうとしている。その接点が、まさにいまの10年だと。

彼はこのビジョンに、全財産どころか会社の未来まで賭けている。2025年には、まだ上場もしていないOpenAIに4.8兆円をオールインで投資すると発表した。ASIという時代の"胴元"になる、という宣言だ。

若い頃、半導体チップの写真に感動して涙が止まらず、その写真を下敷きに挟んで、枕の下に敷いて眠り、学校にも持ち歩いていた──そんなエピソードも語っていた。何十年ものあいだ、この人はずっと同じ夢を見続けている。その執念には、素直に鳥肌が立った。

そして、現実は「それより早い」

でも、ここからが僕がいちばん言いたいことだ。

孫さんが描いた未来は、たぶん、彼が言っていたよりも早く来る。

その証拠に、孫さん自身が予測を前倒ししている。数年前は「AGIは10年以内、ASIは20年以内」と言っていたのに、いまは「AGIは2〜3年よりもっと早く」「ASIは2035年ごろ」と言うようになった。予言のスピードに、現実のほうが追いついてきている。

毎日AIを触っていると、それを肌で感じる。数か月前にはできなかったことが、次のモデルでは当たり前にできるようになっている。ChatGPTもClaudeもGeminiも、進化のペースがまったく緩まない。むしろ、加速している。

「叡智の何千倍」どころじゃない。孫さんは1万倍と言った。そしてその1万倍が、思っていたよりずっと手前にある。

仕事も、お金も、その意味が変わる

人間の1万倍賢い知能が、当たり前のように隣にいる世界。そこでは、いまの常識のほとんどが通用しなくなる。

「働かないと食べていけない」という前提。「お金を稼ぐことが人生の中心」という感覚。そういう、僕たちが疑いもしなかったことの意味が、根っこから変わっていく気がする。

労働の必要性が変われば、お金の価値も変わる。何のために働くのか、そもそも働くとは何なのか。その問いに、みんなが向き合わされる時代が来る。

正直、怖くもある。でも同時に、ものすごくワクワクもする。

だから僕は、「やりたいことをやる」

長いあいだ考えて、僕がたどり着いた結論はシンプルだ。

自分の人生で、本当にやりたいことをやる。それがいちばんいい。

これまでの「いい大学を出て、いい会社に入って、安定して稼ぐ」という道は、正解じゃなくなるかもしれない。AIが1万倍賢くなる世界で、"安全な選択"の意味なんて、あっという間に変わってしまうから。

だったら、他人が敷いたレールや、いつ崩れるかわからない"正解"を追いかけるより、自分が心からやりたいことに時間を使ったほうがいい。好きなことを追いかけて、会いたい人に会って、行きたい場所に行く。

孫さんは最後に、「人類の進化の源泉は願望だ」と言っていた。空を飛びたい、速く走りたい、病気を治したい──その願望こそが、人を進化させてきたのだと。

ならば、AIがどれだけ賢くなっても、「何をやりたいか」を決めるのは、最後まで自分自身の願望だ。

未知の10年が来る。僕はそれを、金魚みたいにぼんやり眺めているんじゃなくて、自分の"やりたい"を握りしめて、迎えにいきたい。